新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.045ライカSL (Typ601)
カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方にお薦めライカを用意してもらい、その機種の魅力を伝えていただいております。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの阿部優希さん。2019年まで営業していた代官山の北村写真機店での勤務を機にライカに深く接した経験に加え、個人的には一癖あるカメラが大好きで写真撮影を趣味としているというユーザー目線を持ち合わせた好人物です。さて、今日のアイテムは何でしょう?
ライカ初のフルサイズミラーレス
「今回はライカSL Type601をチョイスさせていただきました」と差し出された、堂々とした雰囲気のライカ。このカメラの新製品発表会のことを今でもよく覚えています。
「ライカとして初めてのフルサイズミラーレスとして登場したのが2015年の11月ですからもう10年以上も前のことです。光学ローパスレス3重構造の35ミリフルサイズ2400万画素CMOSセンサーを搭載しています。SLという名前は、ドイツ語のシュピーゲロスという言葉が由来だそうです」とのこと。
シュピーゲル(鏡)がロス(無い)ということは英語にするとミラーレスですよね?「ライカがドイツ語でなく英語を母語とするメーカーだったらライカSLではなくライカMLになっていたかもしれないですね。非常にライカらしいシンプルなネーミングだと思います。ちなみに発表時に打ち出されたSLのキャッチコピーは“Photography needs reflection,but no mirror.”これも非常にライカらしい言い方だと思いました」
ライカLマウントのフルサイズ初号機
「このミラーレス機は当時すでに発売されていたライカTシリーズと同じライカLマウントを採用しています。ライカT用のレンズはAPS-Cフォーマットなので、ライカSLに装着するとクロップされますが使用できます。Lマウントは当初からフルサイズを予定した設計をしていたそうです。SLを発売する5年前から計画されていたので、いつかはフルサイズにするぞというのを見越して作ったマウントになります」とのこと。
満を持してフルサイズ化したからか、ライカSL用に設計された24-90ミリ F2.8-4の標準ズームは堂々としたサイズ感です。ちなみに本機の発表会が行われたウエッツラーのライツパークでライカ使いの名手であるトーマス・ヘプカー氏(モハメド・アリの拳のアップの写真を撮った人です)をお見受けしたのですが、その手には新製品のライカSLがあり、レンズはTシリーズ用のショートズームを装着していたことが記憶に刻まれています。
ガチの現場仕様で設計されたレンズ群
ボディと同時に発表されたレンズは3本。24-90ミリF2.8-4のズーム、90-280ミリF2.8-4の望遠ズーム、そして50ミリF1.4のズミルックス。どのレンズも大きくて、フィルム機の中判カメラ用の交換レンズ群を連想させるサイズ感です。
「当時僕は代官山のカメラ屋で働き始めていたので、その時の空気感をなんとなく覚えているのですがミラーレスは小型化できるのがいいよねという流れがありました。なので、第一印象としては『でか!』と思ったんですけれど、ライカは小型化することよりも性能を上げることに注力したのだと思います。日本のメーカーなら24-90ミリでF2.8-4という打ち出し方はせず、F4通しになると思います。90-280ミリというのもズーム望遠端の焦点距離がほぼ300ミリでF4です。50ミリF1.4も衝撃的な大きさですけれど、本当によく写るレンズばかりで、ファインダーを覗いたら『これはいいレンズだな』とわかるほどです
性能重視で設計を進める戦略の結果がこれらの巨大なレンズであるということですね?
「ライカSLが登場した時点でフルサイズミラーレスを作っていたのはソニーだけだったということもあり、α7R IIが出た年でした。当時としてはプロフェッショナル向けという考え方がミラーレス市場にはそこまで深くなかったと思います。まだ一眼レフが主流だった中でライカはミラーレス機を作るに当たって、その先のプロフェッショナルが使うところを見越して製品化したということがレンズの大きさからも窺えると思います」とのこと。
ライカS3から継承された操作系
左が中判デジタル一眼レフのライカS3で、右がライカSL。背面液晶の左右に大きな長四角のボタンがシンプルに配置され、どこにもボタンの役割を説明する文字のプリントがない! この究極のシンプルさもライカSLの特徴のひとつです。
「これは後継機種のライカSL2やSL3には無い部分で初代の特徴です。こうしてみるとライカSシリーズをベースに、操作系はほとんど変えずに作ったことがわかります。ライカS3からミラーを抜いてセンサーをちょっと小さくした。ライカS系のユーザーが乗り換えることも想定して、インターフェイスに大きな違いがありませんからどうぞ使ってみてください的なメッセージも読み取れます。やはりプロ向けの道具としての設計意図が見えてきます。あえて変えすぎるとかえって使いづらいということもあったかと思います」
現在でも見劣りしないファインダー
「あと、EVFのキレイさがかなり大きなメリットかなと思います。今でこそニコンやキヤノンも高精細なファインダーを積んだモデルを出していますが、当時はまだフルサイズではソニーしか出していないなか、EVFでここまでキレイなファインダーって全く見たことがなかったと思います。アイレゾファインダーと名付けた440万ドットという当時としては最高峰のファインダーで、液晶デバイスはエプソン製が採用されているとされています。ライカSL2、SL3でさらにキレイになっていますが、ライカSLは現行の他社製ミラーレスと比較しても全く引けを取らない非常に素晴らしいファインダーです。発売当初に覗いてみて、こんなにキレイなファインダーがあるのか!と思ったのですが、そこはライカでないとできないところかなと思います」とのこと。
確かにライカSL系のEVFは不自然さがなくクリア。それは電子デバイスの性能だけでなく、それを見るための光学系に惜しみなくコストをかけている部分も大きいと思います。
Lマウントアライアンスのレンズも楽しめる
ちなみに阿部さんは初代ライカSLを使っていた経験があるそうです。
「以前使っておりまして、今は手放してしまいました。その時は恥ずかしながらライカのレンズは持っていなくてLマウントアライアンスのシグマiシリーズ45ミリF2.8と、Mロッコールの40ミリを付けておりました。発売当初は孤高の存在だったLマウントですが、現在ではLマウントアライアンスの色々なレンズを使えるというのも魅力かなと思います。あとファインダーがキレイなのでMマウントのレンズを使うのに非常にもってこいのボディかと思います。わざわざピーキングをつけなくてもいいかなと思うえるほどマニュアルフォーカスがやりやすいですね」とのこと。語り出したら阿部さんのライカSL愛は止まりません。
「あとは色味の出方は渋いんだけれど濃厚な絵を吐き出してくれるセンサーなので、そこに惹かれて『やっぱり初代のSLいいよね』と、一回手放したけれどまた買いたくなって探しているお客様もいらっしゃいます。ライカM8もそうですが、古いから悪いではなく、デジタルになってからも古い機種だからこそ古い機種にしかない魅力を感じられるのがライカの魅力的な部分なのかなと思います」
まとめ
というわけで、今回はライカSL (Typ601)のご紹介でした。阿部さんから見て、このカメラはどんなお客様にお薦めしたいですか?
「このカメラの存在だけを知っていて『いつかは私も』と思っていた人ですね。あとはAFを使えることがMシステムと比べてメリットで、シグマやパナソニックのレンズも使えます。センサーはライカが作っているだけあってMマウントのカメラに近い設計なのでMマウントレンズとの親和性も高く、いいとこどりできるカメラです。M-EV1を購入しようか悩んでいる人にもお薦めです。画素数はおよそ1/3だけれどミラーレスのファインダーの極上体験ができるカメラだと思います」とのこと。
ライカSLの初号機はライカTと同様にアルミニウムの無垢材をNC加工機で削り出して製造したユニボディ構造なのもポイント。手のひらの感覚が鋭い人なら、その剛性感が他のカメラにないエモさを提供してくれることが分かるはずです。M型の旧シリーズよりも手頃な中古価格で当時のプロフェッショナルが使っていたモデルを手に入れられることに加え、修理に関しても現在も受付してくれるというのも安心材料のひとつです。
ご紹介のカメラ
ライカSL(Typ601)
バリオ・エルマリートSL f2.8/4 24-90 ASPH.
アポ・バリオ・エルマリートSL f2.8/4 90-280 ASPH.
ズミルックスSL f1.4/50 ASPH.
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ※:阿部優希
販売価格は抑えめだけれど価値があると思われる、人があまり使わないけれど特色のある、ひと癖あるカメラに惹かれる。誰もが狙っているわけではないけれど、好きな人には刺さる機種が好き。初めてのフィルムカメラはオリンパスTRIP35。
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
※取材時点