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特集・コラム

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.044 ズミルックス35mm F1.4 ASPHERICAL

2026/05/09

カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムを見せてもらえるでしょうか?

ライカフェローのお薦めは?

お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。前回はライカ用の交換レンズのなかでも渋いセレクトで、スクリューマウントのエルマー35ミリをお薦めしていただきました。さて今回はどんな趣向の品物をご紹介いただけるのか、とても楽しみです。

フル表記の35ミリASPHERICAL

「今日ご紹介するのは、言わずと知れたMマウントのズミルックスですが、アスフェリカル・フル表記のものです」と差し出されたレンズ。ネームリングには最近のライカ製品と同じフォントで文字や数字が刻んであり、ヴィンテージという雰囲気ではないです。これってどんなレンズでしょうか?

「ライカで初めて非球面を使ったのはノクティルックスの50ミリF1.2ですが、今回のレンズは非球面レンズを初めて2枚使ったレンズです。ノクティルックス50ミリの登場から非球面レンズ採用の第2弾として登場するズミルックス35ミリまで15年ものブランクがありますが、それまでなかなかチャレンジできなかったのでしょう。発売は1993年から1994年頃までの短い期間になります」とのこと。

製造本数の少ないレアなレンズ

「このレンズは1990年のフォトキナで発表されました。ライカによくあるエピソードですが、2枚の非球面レンズの製造での歩留まりが悪かったのか、わずか数年で販売が終了してしまったという逸話のあるレンズです。実際に製造したのは1988年からで、完了したのが1993年です」

ということは、最初に作ってから売り出すまで5年もかかっている計算になりますよね? 「初期ロットは34**〜番台で最初に3000本が作られていて、そこである程度製造して、その後急に作らなくなったというか作れなくなったのか、1993年に1000本を製造して終わっています。総数4000本ということで、ある意味最初に3000本を作って息切れしてしまったという感じですね」なるほど。作りたくても作りづらくて短命に終わった高性能レンズということですね。うっすら凹んだマイナス曲率を第一面に配置したレンズというのは『こいつ必ずよく写るだろうな』という印象があります。

非球面レンズで向上させたレンズ性能

「球面レンズのみで構成された初代のズミルックス35ミリでは絞り開放の描写があまりにもやわい感じでしたが、その状況を払拭したかったのか分かりませんが気合が入っています。レンズ構成は5群9枚で、絞りを挟んで2群目と5群目に非球面レンズが入っていて、ASPHERICALとフル表記されています」

 

左が2枚非球面のモデルで、ASPHERICALのフル表記。右がその後1994年以降に登場するモデルで非球面レンズを絞りの後ろの5群目1枚だけにしたもの。2枚も使っていた非球面レンズを1枚に省略したからなのかどうか理由は不明ですが、ネームリングはフルスペルではなくASPH.と省略した表記になっていて、これ以降のライカレンズで非球面を採用している場合にはASPH.の表記が標準となります。

2枚非球面と1枚非球面の違いは?

左にあるのが2枚非球面、右が1枚非球面です。どちらもモダンなデザインで印象は近いですがピント調整ノブのスタイルが少し違いますね。この2本で描写の傾向に違いはありますか?

「まぁ、立体感というか絶妙な味付けが2枚非球面には感じられます。それに加えて何本か撮り比べてみると非球面レンズの製造に慣れていなかったからか、個体による違いもあるという話もよく聞きます」とのこと。レンズ構成図を見るとレンズの張り合わせ面が4箇所もあるので、その部分が製造から30年ほど経過して何か変化してきているという可能性もありそうです。いずれにしてもフルスペルの2枚非球面の方が市場での評価が高い?

「そうです。ここにある2枚非球面と1枚非球面では10倍の値差があります(笑)」

歴代ズミルックス35ミリの変遷

新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンの圧倒的な品揃えなくしては撮ることのできないミラクルショットがこちら。歴代のズミルックス35ミリを横並びで撮影してみました。左端が球面レンズのみで構成されたモデル。いわゆるクセ玉として有名で、クセが強すぎるレンズの愛好家に向けて復刻生産されたのはご存知の通り。その隣が今回の主役である2枚非球面のモデル。それから右に向かって3本が1枚非球面になってからの歴代モデルです。

「1枚非球面になってからはレンズ構成に関してはほとんど変わらず、フードの素材が初期は被せ式のプラスチックでその後の世代では金属製になり、ねじ込んでいくと所定の位置でピタッと止まるものに変更されています。現行機種では最短撮影距離が短くなり、フードは組み込みの引き出し式になりました」とのこと。機能や性能の向上をめざすことで、時代が進むとレンズのサイズ感が大きくなっているのが興味深いです。

このレンズと吊り合うライカMボディは?

さて、ここでお約束のスタイリングタイムです。ズミルックス35ミリ2枚非球面フルスペルの似合うボディは何かということになりますが、今回ばかりは時代を合わせすぎると丸山さんの美的センスからすると面白くないのでは?

「そうですね、このレンズが発売された当時はライカの停滞期でもあり、レンズの気合の入り方に対してこの当時のボディであるM6では失礼ですが役不足な感じがします。ライカM5はライカが気合を入れて変革しようとした機種なので、その点では2枚非球面のズミルックス35ミリに思想的に近いのではないかと思います」とのこと。ものづくりの考え方や熱量が近似値であるという理由でライカM5との組み合わせがお薦めというのは深い洞察だと思います。見た目の雰囲気もいい感じです。

まとめ

このレンズとそれ以降の非球面ジェネレーションとの違いについて「もちろん球面のズミルックス35ミリと比べると絞り開放の描写は劇的にシャープに写って全然違うレンズだと実感できますが、こっち(初期の2枚非球面)ですと程よい柔らかさが絶妙に残っているんですね。1枚非球面でASPH.省略表記のモデルになるとさらにバシッとよく写る、面白みがないということでもないですけれど、いわゆる現代的な描写になります。それ以降は描写の傾向はあまり変わっていませんので、その時点で完成されたという印象です」と丸山さんは丁寧に説明してくれました。

非球面レンズを潤沢に使い圧倒的な性能を導き出した初号ASPHERICALモデルは、それ以降のジェネレーションにはない描写の雰囲気が感じられるモダン・クラシックレンズということですね。このレンズはレアなだけあって値段もすごいですけれど、どんな写真が撮れるのか、気になり出したら夜も眠れなくなりそうです。

ご紹介のレンズ

ズミルックス35mm F1.4 ASPHERICAL 価格440万円(税込)

 

価格は取材時点です

案内人

ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント

執筆者プロフィール

ガンダーラ井上プロフィール写真

ガンダーラ井上

ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。

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ライターのガンダーラ井上氏が当店6階ライカヴィンテージサロンにあるライカを紹介する企画『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』の第14弾です。本記事はカメラのキタムラポータルサイト『ShaSha』より転載しています。

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