新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.043ライカM11 グロッシーブラック
カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方にお薦めライカを用意してもらい、その機種の魅力を伝えていただいております。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?
艶ありブラック塗装のカメラとレンズ
「今日のカメラは自分のお薦めとしては珍しくセットです。ライカM11グロッシーブラックとノクティルックスM 50ミリF1.2 ASPH.のグロッシーブラックペイントというセットになります」と差し出されたブラック塗装のカメラとレンズ。その表面は本当にツヤツヤしていて目を惹きます。
カメラもレンズも普段は半艶消しのブラックで仕上げられた品物を目にする機会が多いのですが、いわゆるピアノブラックと呼ばれるツヤツヤの塗装にすると大きく印象が変わるものです。これって特別モデルという扱いだったのでしょうか?
「はい。2024年の11月から販売開始されて、遅い方では翌年の3月から4月にかけて新品をお渡しするような形で販売された、ライカ伝統のブラックペイント仕上げのセットです」
真鍮素材とブラックペイントの存在感
左がグロッシーペイントのセットで、右が通常のブラック仕上げ。グロッシーペイントのボディには赤いLeicaのマークがなく、トッププレートに筆記体の彫刻が入っています。ノーマルのブラック仕上げはトップカバーがアルミニウムに対して、こちらは真鍮なので手にした感触は思いのほか重い!
「おそらくM11のシルバーモデルと同じような感触だと思います。ノクティルックスを装着すると前のめりにならずバランスは良いです。M6にもブラックペイントはありますが、そちらはコレクターズアイテムという印象が強いのに対してM11グロッシーペイントは、カメラを使って育てるみたいな意味合いもすごく大きいのではないかと思います」
しっかり手入れしてあげたくなる質感
このペイントは指紋プルーフではないので、手指の油脂がペイント表面で目立つタイプの塗装です。でも、そんなことは撮影中には気にせずに家に帰ってから丁寧に拭き取ってあげましょうという感じ。最近のライカの塗料は本当に実用的で、指紋もつかなければ傷にも強くて銃器やフライパンなどと同じくらいの塗面のタフさがあるという印象ですが、そういう超実用の世界に突っ走っているのと対極の、むしろ剥がれることを肯定的に捉えた塗装がしてあるのがポイントだそうです。
「M9-Pのブラックペイントなどではペイントの上に1層アクリルコーティングをして塗面が剥がれづらくしてあるそうですが、M10-Rのブラックペイントからは保護膜を廃止して光沢感がすごくあって塗面が剥離しやすくしているようです」
ペイントの剥離によって愛着を育む
グロッシーブラックペイントのシャッターダイヤルや電源スイッチの突起などには通常モデルよりも細かいダイヤパターンの彫刻がされているのもポイント。刻み目が細かいので塗装が剥離していくとヴィンテージ機のような雰囲気になることを目論んでいるようです。
「過去と現在をつないでいるペイント剥がれによる真鍮の露出度合いやエイジングがライカの魂じゃないですけれど、どう握るかとかどう撮るかで結構個性が出てくると思うので、そこもブラックペイントの魅力なのではないかと思います。レニークラビッツモデルではあらかじめ職人が角を削って地金を出していましたが、やっぱり自分で育てることでより愛着も湧きますし、毎日カメラを持ち歩くようになると思うので、より愛が深まるのではないかと思います」とのこと。カメラは使うものという大前提でお薦めしてくれる中明さんらしいコメントです。
ノクティルックスもペイント仕上げ
セットで用意されたレンズもブラックペイント仕上げ。1966年発売のオリジナルはブラッククロームなのでペイントというものは存在しないけれど、むしろこういう仕上げのものがヴィンテージにもあったのではないかという存在感ですね。
「はい。このレンズは雰囲気が怖いです(笑)。レッドスケールはオリジナルにもごく少数あったりするのですが、こういった艶ありのペイントはないので。仮にオリジナルでこの仕上げのものがあったらどんな価値がつくのかと思います。そこはライカのブランドの積み重ねや象徴的な意味を大切にしている部分だと感じています」
ヴィンテージよりも経年変化が楽しめる
オリジナルのノクティルックスと並べてみた贅沢なショットがこちら。左がセットになっている真鍮外装のブラックペイント。中央と右がオリジナルのアルミ外装のヴィンテージ。アルミの場合はペイントが剥がれると白っぽい金属面が露出してきます。
「オリジナルのノクティルックスはアルミニウムにブラックアルマイト処理した上にペイントしているので金色は出てこないようですが、セットのレンズは真鍮です。同じ素材でライカM11と同時に販売されたことに大きな意味があるのではないかと思います。1960年代当時の非球面レンズを現代の技術で甦らせたことと、F1.2の開放でもM11の電子シャッターがあれば高輝度の被写体も撮影できることが、昔と今をつないでいる象徴なのではないかと考えています」
趣味と実用の両立といえば中明さんの真骨頂ですが、その究極のようなセットということなのですね。
まとめ
このカメラとレンズの組み合わせの魅力をまとめると、どんな感じでしょう?
「ライカM11の使い勝手は個人的にはM10系列よりも良いと感じています。ノクティルックスはM11と組み合わせることでより真価が活かせるというのがあります。F1.4でも直射日光が当たっている場合では1/8000秒は欲しいですがM10系の1/4000秒より撮影できる条件の幅が広がってM11では1/16000秒までいけるので、このF1.2のレンズがより使いやすくなっていると思います。絞りを開けるためにNDフィルターを使うという方法もありますが経年変化で黄ばんでくることがありますし、そういった不安もなく使えるのもいいところかなと思います」
このセットは豪華な実用品としてベストな組み合わせであるということがよく分かりました。それに加えてペイントの剥がれ具合で愛機と共に過ごした時間を刻むことができる仕上げということですね?
「こちらはライカの伝統の部分に重きを置いた、趣のあるモデルだと思います。艶の変化や傷などが気になるならノーマルなモデルにしていただいて、やっぱり自分のカメラとして育てたい、ワンランク上のものを持ちたいという感覚があるならこちらのセットを育てていただければと思います」
ご紹介のカメラ
ライカM11グロッシーブラック
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。