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特集・コラム

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.042ライカM8

2026/03/14

カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方にお薦めライカを用意してもらい、その機種の魅力を伝えていただいております。

コンシェルジュのお薦めは?

今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの阿部優希さん。2019年まで営業していた代官山の北村写真機店での勤務を機にライカに深く接した経験に加え、個人的には一癖あるカメラが大好きで写真撮影を趣味としているというユーザー目線を持ち合わせた好人物です。さて、今日のアイテムは何でしょう?

M型ライカ初のデジタル機

「今日のカメラは、こちらになります」と差し出されたのは、ライカM8でした。私の記憶が正しければ2006年の12月に発売された、ライカ初のデジタル版のM型カメラですね。

「センサーはコダック製の1030万画素のCCDセンサーを採用していて、フルサイズではないので35ミリ換算で1.33倍の画角になります。1030万画素という、今となっては低く見える画素数ですが、ローパスフィルターが入っていないので画素数以上のシャープな写真が撮れます」とのこと。

M用交換レンズとの親和性を追求

あれから20年近くの時間が経過したのかと思うと感慨深いですが、ライカM8が出た瞬間にはライカ判ではなく、ひとまわり小さなセンサーにちょっと落胆したのを覚えています。

「そうですね。発売当初はなぜフルサイズではないのかという意見が多かったそうですが、当時の技術ではフルサイズまで搭載するのは難しかったようです。M型のデジタル化にあたり設計上の課題になったのが、一眼レフと比べてフランジバックが短いことでした。そこでコダックが開発した新型センサーはキツい角度で光が入っても良好な画質が保てるような設計になっているそうです」

そして、デジタル初号機であるが故のハプニングも甘苦い思い出として蘇ります。

「M8のCCDセンサーは赤外線カットのフィルターが薄いので、メーカーも予想していなかったマゼンタ被りという現象が発生するのが難点ではあります。そこでUV/IRフィルターを装着することで対処しましたが、広角レンズの場合、逆に周辺がシアンに被る問題もあり、6bitコード付きのレンズであればデジタル補正ができるので使用が推奨されていたようです」

あと何コマ取れるかをデジタル表示

阿部さん本人もライカM8を使っていたことがあり、何やら思い入れがある様子です。

「M11などと比べるとシャッター音が大きいですが、シャッターのチャージ音も含めて撮っている!という実感がわくシャッターだと思います。愛らしいポイントとしては撮影残り枚数のカウンターがあり、これは他のM型にはない部分です。もともとはSDカードしか使えないカメラでしたが、ファームウエア2以上であればSDHCが使えるようになりました。でも32GBまででそれ以上の容量のものは受け付けません。ですから中古を購入する際にはファームウエアも大事なポイントかなと思います」

ファームアップならサーバーにあるデータをダウンロードすればできるのではないかと思ったのですが現在では公開されていないそうです。

「現在はメーカーに送ってもファームウエアをアップするとカメラが破壊されてしまう危険性があるという理由で受け付けてくれません。すなわちファームウエアは固定ですので中古を買うときに注意してください」

それでもM8が使いたくなる理由

「M8に関しては修理ができないので保証はつけていません。初期不良対象の期間の1週間を過ぎれば、もう何もできません。ですからできるだけ安心していただくためにも必ずライカで動作確認してもらい、問題ないとお墨付きをいただいたもの以外では難あり品として販売するようにしています」とのこと。ファームウエアのアップだけでなく、ライカM8をこれから使っていくにはカメラの修理ができないという前提を承諾する必要があります。それでもこのカメラには他の機種にはない魅力があるそうです。

「肝心の写りは、これぞCCD という感じですが、個人的にはM9のCCDとは180度違うと感じています。M9はポジ、M8はネガフィルムと言われていますがまさにその通りだと思います。コダックのネガを詰めた時のなんとも言えない黄色っぽさが出ていて、他の機種では味わえない色の出方をするのかなと思います」

純正の黒いLeicaバッジのライカM8.2

ライカM8シリーズには、M8.2というモデルがありました。

「見た目の部分から大きな違いがありまして、M8はブラッククローム仕上げですが、M8.2はみなさん大好きなブラックペイント仕上げです。たぶん通常モデルではかなり珍しいと思うのですがライカの赤いロゴが最初から黒いのが大きな特徴です。今回ご用意したものは現行の革に張り替えてありますが、本来M8.2はちょっとゴツゴツしたテクスチャーになっていました」そうですね、M8.2は黒くて渋好みの静かな雰囲気のカメラでした。

「M8は1/8000秒まで切れるのですがシャッター音が当時大きいとされたことでマイナーチェンジ版であるM8.2では1/4000秒を最高速度にすることで少し静かなシャッター音になりました。M9も1/4000秒で、M11の電子シャッターが出るまではM8が最速の記録を保持していて、メカシャッターとしては現在でも最速のM型カメラになります。なので大口径レンズを使いたい方にはM8がオススメかなと思います」

背面液晶も豪華な仕様になっているM8.2

シャッターの最高速度という実用のスペックを優先するならM8なのでしょうが、黒塗りで筆記体のロゴが彫刻してあるM8.2も魅力的。背面液晶カバーの素材はガラスよりも強く高価な人造サファイアなのもポイントです。

「あとM8.2にはちょっと特殊なスナップショットモードというものが搭載されています。6bitコード付きのレンズを装着してシャッター速度ダイヤルをSにしておけば設定のほとんどをカメラに任せて気軽に素早く撮影できるというモードで、Infoを押すと撮影に関する説明の画面が出るようになっています。メーカーとしてはマイナーチェンジモデルを出すにあたり、何か新しい要素を入れたくなったのだと思います」とのこと。このカメラを持っていたことがありましたけれど、こんな機能があったことは忘れていました。

まとめ

というわけで、今回はライカM8のご紹介でした。阿部さんは2回買って現在は手放したものの、いまだに心の中にこのカメラは居続けているとのこと。M8の魅力ってどんなところにあるのでしょうか?

「ライカM8での撮影はフィルムカメラの所作とあまり変わらないと思っています。再生しても正直なところ軽く露出がわかるくらいの画面です。もちろんライブビューもないので実際には家に帰ってパソコンのモニターで見てみないとわからないので、そういった部分もフィルムカメラに結構近い部分があるのかなと思います。本当に、デジタルカメラにコダックのネガを詰めているという感覚ですかね。そういったデジタルとフィルムが半分半分みたいな撮影体験が味わえるのではないかなと思います」とのこと。

コダックのCCDセンサーが出してくる独特な画像に痺れるだけでなく、撮影のフローも含めてそれ以降のM型デジタルとは異なる体験をさせてくれるカメラ、それがライカM8なのですね。

ご紹介のカメラ

ライカM8
ライカM8.2

案内人

ヴィンテージサロン コンシェルジュ※:阿部優希

販売価格は抑えめだけれど価値があると思われる、人があまり使わないけれど特色のある、ひと癖あるカメラに惹かれる。誰もが狙っているわけではないけれど、好きな人には刺さる機種が好き。初めてのフィルムカメラはオリンパスTRIP35。

※取材時点

ガンダーラ井上氏プロフィール写真

ガンダーラ井上

ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。