新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.038 ライカM3 オリーブ
カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムを見せてもらえるでしょうか?
ライカフェローのお薦めは?
オリーブ色にペイントされた特別なライカ
「ここのところライカM3が続いていますが、気がつけばオリーブをやっていなかったですね。ライカM3のプロトタイプから少し戻りますが‥」と差し出されたこのカメラ、ご覧の通りオリーブ色にペイントされています。オリーブのモデルといえば現行品のライカM11にもラインナップされていますが、その始祖と呼ぶべきヴィンテージ品です。
「こちらのM3オリーブは1957年に910501〜の番号帯で100台製造された最初のロットの中の1台になります」
ブンデスアイゲンテュームって何ですか?
このオリーブ色のライカには巻き上げレバーの下部にドイツ語でBundeseigentum(ブンデスアイゲンテューム)の刻印があります。その意味は“連邦政府所有物”。連邦とは要するにドイツ連邦共和国なのでガチの軍事物資ですね。このカメラが製造された1957年という年代を振り返れば、戦後ドイツが東西に分割され、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が成立したのは1949年。それから6年後の1955年にはパリ協定により主権が回復。すなわち再軍備が承認されたことで西側陣営の防衛同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟するに至ります。その2年後に製造されたのがこのオリーブ色のライカということになります。
レンズにもBundeseigentumの刻印を発見
「今回付いているレンズは50mm F3.5エルマーのMマウントです。同じくBundeseigentumの刻印があり1956年の製造なのでボディと同時期です。軍用の交換レンズにはエルマー50mm F2.8も存在しますし、メガネ付きズマロン35mm F3.5、135mmはエルマーF4に加え、確かヘクトール135mm F4.5も存在していたと思います」とのこと。
そのなかでも丸山さんのお気に入りはズマロンだそうです。「今回ご用意できなかったのが残念ですが、メガネ付きの軍用ズマロン35mmを装着すると戦車のような雰囲気で僕は好きです」
どうしてこのオリーブ色になったのか?
丸山さんの解説によると「1950年代の半ばに西ドイツ連邦軍がライツ社に軍用カメラの依頼をした際に、最初はグレー仕上げのバルナック型ⅢfとM3の2機種をサンプルとして製造したそうです。M3もグレーです。そのあとM3の方が先進的だったのでそれを採用することになり、色はミリタリーグリーンに切り替えて納入することになったそうです」とのこと。
第二次世界大戦中の軍用ライカはブラックもしくはグレー仕上げで、オリーブ色というのはこのM3が最初。どのような経緯でオリーブ色になったのか不明ですが、ナチス時代の軍装品とは異なる印象にしたいという意識が働いたのかもしれません。
製造時期で変化する革シボのパターン
オリーブ色に塗装された軍用ライカM3の製造数は、分かっている限りで300台強。M3のブラックペイントよりも圧倒的に少ないです。
「初期型は1957年に100台製造された後1958年に21台、その次に1959年〜1961年のあいだに90台が納入されていて、そのあたりまでは皮シボのパターンが大きくゴツゴツとした表面になっているのが特徴です。その後1968年までに93台製造されたロットでは通常のM3のグッタペルカをオリーブ仕上げにしたものに変更されます。ちなみに初期型3番目のロットは端境期ということもあり、背蓋のグッタペルカだけが細かいシボになっています」とのこと。製造時期で革シボのパターンが変化することに加え、910〜のロットでは丸山さんの大好物である“福耳”のストラップアイレットなのも見逃せないポイントです。
軍用M3は中までしっかりオリーブ色
外観の特異性は理解できましたが、裏蓋を開けてみると通常品と違うのでしょうか? 普通のブラックペイントのM3(これもこれでレア)が左で、軍用オリーブ色のM3が右。外から見える部分だけでなく、裏蓋やボディシェルもオリーブ色です! ここまで一貫してオリーブ色にしておけば外装のグッタペルカが剥離したとしても、その下もオリーブ色だから目立たないですね。「別に黒にしてもいいのに、わざわざここもオリーブにしたというのがライツの真面目さ、こだわりを感じます」
まとめ
さて、この軍用ライカを使いこなすに相応しいスタイリングは? と丸山さんに尋ねれば「NATOグリーンに塗装したポルシェから出てきたらミリタリールックの服装で、首にはこのカメラをぶら下げていたら誰も文句が言えないですよ(笑)」とのこと。その際には別売ですが軍用で識別コードも入っているオリーブ色の専用ケースもお薦めだそうです。
「ブラックペイントのライカは皆さんが憧れていつかは使ってみたいと仰ぎ見る高い山のような存在ですが、オリーブライカはそもそもブラックペイントより数が少なく、特殊な色であることから好みが分かれてしまう部分があると思います。ある程度ミリタリーが好きな方か、グリーンカラーが好きな方というイメージですかね。あとは本当のコレクターで色々なライカを集めたいという3つのパターンでしょうか」
サファリあるいはレポーターという名称になりながら、ライカではオリーブをレジェンド色と捉え数々のモデルに採用していますが、その源流となるのが軍用ライカM3オリーブ。現役時代には一般市民が手にすることができなかったという史実とともに味わいたい逸品です。
ご紹介のカメラ
ライカM3 オリーブ(レンズセット)価格:4,000万円
オリーブ仕上げの軍用カメラケース 価格:291,600円
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント
執筆者プロフィール
ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
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