新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.037 ライカM11-Pサファリ

カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方が「今はこのモデルを見せたい」と感じるままにお薦めライカを用意してもらい、いろいろ教えていただくという企画です。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?
現行品のサファリカラー採用モデル

「今回お薦めするのは、ライカM11-Pサファリです」と差し出されたのは現在発売中のライカでした。でもオリーブ色に塗ってあるから限定品ですよね? それって中明さんらしくない気もしますけど‥。と質問してみれば意外な答えが返ってきました。
「ライカ伝統のオリーブ色、サファリカラーを採用したモデルは特別仕様でしたが、M11-Pサファリは数量こそ少ないですが限定商品とされず、グロッシーブラック仕上げと同様に現行品として販売されています」とのこと。特別なカラーだけれど限定品ではないというのが趣味と実用のバランス感覚を大切にする中明さんらしいセレクトです。
ライカ伝統のオリーブ色を継承

ライカM11-Pサファリは、先輩機種のライカM10-Pサファリとほぼ同じ艶消しのオリーブ色で塗装されているのが最大の特徴で、機能的には他の色のライカM11-Pと同じです。
「ダイヤルなどの部品がシルバーになっていて、そこがアクセントになっているのも格好いいと思います。シルバーであることでライカM3のオリーブに見られるようなクラシックな雰囲気と高級感、上質な感じに見えると思います。操作部がシルバーなのはライカM3のオリーブへのオマージュとも解釈できて、過去のモデルに対するリスペクトも感じます」とのこと。ライカM3オリーブといえば西ドイツ軍用に少数が納品された激レアなコレクターズアイテムですが、それに比べるとこちらは実用機として使い倒せる安心感があります。
ペイントロスによるエイジングも楽しめる

背面のボタン類はシルバーではなく黒で、MADE IN GERMANY表記にも黒いペイントが入れられています。ライカM10-Pサファリでは文字に墨入れはされていなかったと記憶していますが、このあたりは好みの分かれるところかと思います。
それはそれとして、本機の魅力を中明さんに尋ねれば「トップカバーが真鍮の削り出しになっているので塗装が剥がれてくると金色の地金が出てきて、そこはライカM3のオリーブと同じ感じでヴィンテージ感を出せると思います。所有していて楽しい、育てて楽しいという両方を兼ね備えた機種です」とのこと。撮っていない時間はボディをすりすり触って手擦れの痕跡を育ててあげるということですね。
サファリモデルっていつからあるのか?

私の記憶が正しければ、ライカ製品に“サファリ”という名称が付いたのは絞り優先AEを搭載したフィルム一眼レフの限定モデル、ライカR3サファリが最初で1978年の発売でした。ライカM8.2以降のデジタル機に採用されているオリーブ色とは多少異なり、ライカR3サファリのボディおよび交換レンズの色は明度が低い濃い緑色でした。上の写真は、ライカM-PサファリとライカM11-Pサファリ。この色について中明さんにコメントを求めると
「ライカのオリーブ色のカメラは、保護色に塗ることで実用性を高めたという意味で軍装品や探検用品として位置付けられていたようです。過酷な自然環境や戦地での使用が想定されていて、視認性を抑えて環境に馴染ませるための一種のカモフラージュとしてオリーブ色が選ばれていたという経緯があると思いますが、今となってはファッションアイテムの一部であったり自分の個性を出すための色になっています」とのこと。
オリーブ色で統一された同梱バッテリー

ライカM11からは底蓋を外してからバッテリーを取り出す方式ではなくなったので、バッテリーの底部は剥き出しの仕様です。だから露出する部分にはオリーブの塗装がしてあります。ライカM11用であれば色に関係なく互換性があるので、シルバーのバッテリーを装着することも可能。アクセサリーシューカバーやバッテリーロック解除キーもシルバーなので、見た目の違和感もなく使えると思いますし、予備のバッテリーを2本用意するなら色違いだと区別しやすいですね。中明さんによると、お客さんで実際にシルバーのバッテリーを使われている方もいらっしゃるとのことでした。
サファリカラーに似合うシルバーのレンズ

ライカM11-Pサファリに似合うレンズは?という問いかけに対する答えとして出てきた2本のレンズ、それは復刻版のズミルックスM35mmと50mmで、いずれもシルバー仕上げのもの。コーディネートとしてバッチリだと思いますが、逆にこのカメラに黒いレンズをつけると“ヒゲが濃い人”みたいな印象になりますよね?
「いや〜、どうでしょうね。実用される方は気にしないでしょうけれど、黒いレンズとの組み合わせには好き嫌いがあると思います。見た目でも楽しみたいのであればシルバーのレンズで、復刻タイプであれば尚更いいと個人的には思います。操作部品の塗装のシルバーの質感がレンズと一緒なので相性がいいです。ちなみにストラップの同梱品は黒ですが、ブラウン系にしていただけると全体のコーディネートとしてはしっくりくると思います」
まとめ

サファリの語源は旅を意味するアラビア語だそうです。それがアフリカに伝わり、スワヒリ語で長い旅を意味する言葉になったことから、アフリカ東部を陸路で移動しながら銃火器を用いて野生動物を遊猟することを意味していた時代が長く続きました。
中明さんの解釈としては「そもそもの起源は野外仕様で戦争や探検の場に持っていくカメラでしたが、ライカM11-Pサファリは上質な道具として文化的であったり自己表現の選択肢の一つとして非常に存在感のある商品だと思います」とのこと。
では、このカメラをどんな人に使って欲しいでしょう?
「ガシガシに実用で使う方でもいいですし、都会派の街スナップ派にもいいですし、人と違う何かを持って存在感を示したい方など幅広い層にお薦めできます。ライカの歴史にオマージュしたい方なら、ライカ通の人から『その色のライカを選んだんだね』と言ってもらえると思います。使う人それぞれのセンスやキャラクターを押し出せるカメラです」
そう言われると、自分に当てはまっている!と感じられる方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
ご紹介のカメラ
ライカM11-Pサファリ
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
執筆者プロフィール

ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。