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特集・コラム

新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.035 ライカM3 プロトタイプ その1

2025/08/09

カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという有り難い企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。さて、今日はどんなアイテムを見せてもらえるでしょうか?

ライカフェローのお薦めは?

お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店でライカフェローの肩書を持つ丸山さん。ここ数回にわたりブラックペイントのライカM3をお薦めいただき、前回はブラックカウンターという稀有なモデルを拝見しました。さて、今回はどんなネタで勝負していただけるのか楽しみです。

ライカM3のプロトタイプでございます

Leica M3プロトタイプを手持っているところを撮影した写真

「こちらが、1952年から1953年の間に作られたライカM3のプロトタイプでございます」と差し出されたのはシルバークロームに輝くライカM3に見えるカメラでした。少し離れた距離から見ると、見慣れたライカM3と同じような雰囲気なのですけれど、なんだかちょっと違うような気も。丸山さんがいつも以上に丁寧な所作でカメラを抱え上げていることから、この機体が相当な激レアさんであることが伝わってきます。

シリアルナンバー0030の超希少な機体

Leica M3プロトタイプの天面部を撮影した写真

ライカM3の発売年は1954年。その前年および前々年に製造されたプロトタイプということで、このカメラのトッププレートには型番であるM3の刻印がありません。そっけなくNr.0030と番号だけが記されています。すなわちプロトタイプ30号ということですか?

「ライカM3プロトタイプの製造台数は一説によると65台とされていますが、その30台目になります。こちらは正式発売モデルを量産していく前の測定用として作られたカメラであり、ライカ社内で廃棄されたものも多いと思われます。もしかしたら現存しているのは10台に満たないレベルかもしれません」ということで、やはり世界遺産レベルの有難いお品物のようです。

通常販売品とは異なるディテールの数々

Leica M3プロトタイプと通常のM3を並べて撮影した写真

では、通常販売モデルと並べて比較してみましょう。上段がライカM3プロトタイプ30号、下段がお馴染みのライカM3の初期ロット70万番代の機体です。シリアルナンバーの先頭にM3の刻印があるのが製品版です。

筆記体のLeicaの書体はプロトタイプでは小文字部分がふくよかで全体的におおらかな筆致であり、M型以前のバルナック型ライカの各種によく似た筆跡です。ドイツ連邦特許の略号DBP(Deutsches Bundes-Patent)、社名であるエルンスト・ライツ有限会社Erunst Leitz GMBH、そして所在地のWetzlarという刻印がプロトタイプは4行組み、製品版では3行組みで、GMBHの開いた文字間隔や、バルナック型から継承されている小文字も用いた表記などがプロトタイプの特徴です。

逆反りの末端が特徴的な巻き上げレバーの形状

Leica M3プロトタイプの巻き上げレバーを撮影した写真

よく見ていると普通のライカM3とは様子が違うのですけれど、順番に教えていただけますか?と丸山さんに尋ねれば、「まず目につくのは巻き上げレバーが独特な形をしていることです」とのこと。

確かに、見慣れたライカM3の巻き上げレバーの印象とはかなり異なりますね。製品版が優しい曲線構成なのに比べると、プロトタイプのパーツは攻めた雰囲気。指当て末端が逆反りになっているので自己主張が強い印象です。バルナック型ライカではノブ式だったものを革新的なレバー式としたことを強調しているような意匠ではないかと思います。

パーツ下面に段差があるのはプロトタイプのみ

Leica M3プロトタイプの巻き上げレバーを裏面から撮影した写真

金属製の巻き上げレバーは、親指の当たる部分の厚みを増してあげることで巻き上げ操作時の指あたりの負荷を軽減しているのは製品版と同じですが、厚みを増すにあたり段差がパーツ上面に見えているのが製品版であるのに対し、このプロトタイプでは下面に段差を設け、天面はフラットになっているのが特徴です。

量産品より少しだけ小ぶりな巻き上げレバー

Leica M3プロトタイプとノーマルM3の巻き上げレバーを並べて撮影した写真

上段がライカM3プロトタイプ30号、下段がライカM3の初期ロットです。巻き上げレバーのサイズ感はプロトタイプの方が若干ですが小さいです。とはいえ巻き上げの感触に関しては製品版と大きな違いは感じられませんでした。初期ロットの製品版と同様にダブルストロークの仕様で、レバーを2回操作することで1コマ分巻き上げられ、シャッターチャージも完了します。

巻き上げレバー左側のシャッターダイヤルに関してはプロトタイプと製品版では大きな違いはありませんが、目につくのはシャッターレリーズボタンとフィルムカウンター。これらは明らかに製品版とは異なります。

シャッターボタンに刻まれた謎の装飾

Leica M3プロトタイプのフィルムカウンターを撮影した写真

ライカM3プロトタイプのシャッターボタンは、レリーズソケット用のネジ穴が空いているのは製品版と同じで、これはバルナック型ライカから一新した規格になっています。そしてシャッターボタンの外周には、腕時計の世界ではフルーテッドベゼルなどとも呼ばれる放射状の溝が刻まれているのがポイント。これが何の意味を持つのかは謎です。

シャッターボタンよりも違いが目立つのはフィルムカウンターで、外部に露出したディスク式。手動でセットし純算でゼロからカウントアップしていく仕様です。

操作方向が異なる巻き戻しノブ

Leica M3プロトタイプの巻き戻しノブを撮影した写真

ライカM3プロトタイプには、量産型にない特徴がてんこ盛りです。よく見ないと気づきませんが、巻き戻しノブの回転方向も通常のM3と逆に矢印が記されています。時計回りで体が覚えてしまっているので、いつものライカと同じ方向にノブを操作してフィルムを巻き戻そうとするとジャムってしまうので要注意ですね。トッププレートに埋め込まれた巻き戻しノブの形状はプロトタイプと量産型で違いがないのに矢印は逆方向になっているのは、なにか機構的な違いが両者の間にあるということでしょう。

巻き戻しノブと巻き戻し軸を直接連結

Leica M3プロトタイプの内部ギアを撮影した写真

底蓋を外して、ライカM3プロトタイプのフィルム巻き戻し軸の部分に光を当てて撮影したのがこの画像です。巻き戻し軸の9時位置にあるのが巻き戻しノブの軸に設けられたギアです。これが巻き戻し軸のギアと噛み合って回ります。バルナック型ライカではフィルム巻き戻し軸と巻き戻しノブは同軸のシンプルな構造でしたが、ライカM3プロトタイプではファインダーブロックが大型化したことから巻き戻し軸をトッププレートまで貫通させることができず、巻き戻しノブをオフセットする必要があったと思われます。でも、こうすると2つのギアの回転方向が逆になるので巻き戻しノブを反時計回りに操作しなければならなくなったということですね。

アイドラーギアが組み込まれた量産モデル

Leica M3の内部ギアを撮影した写真

これは製品版のライカM3のフィルム巻き戻し軸の部分に光を当てて撮影した画像です。巻き戻し軸の7時方向にひとつギアが増設されています!フィルム巻き戻しノブの操作はバルナック型ライカをはじめ時計回りが基本です。という訳で、製品版のライカM3ではそれぞれのギアの間にアイドラーギアを組み込むことで巻き戻し軸と巻き戻しノブの回転方向を同一化して時計回りを実現させたという次第。こうして1つの課題をクリアしていくごとにカメラの部品点数は増えていってしまうものなのだと思います。

まとめ

Leica M3プロトタイプを正面から撮影した写真

ライカフェローの丸山さんも、このライカには畏敬の念を抱いている様子。

「細かいところを見て行くほど製品版との違いがわかってくるのが魅力です。このプロトタイプがなければ現在のMデジタルの形も全然違うものになっていたかもしれませんし、バルナックタイプのままでM型への転換がなかったらライカそのものが発展しなかったかもしれません。このプロトタイプがなかったらと思うと、本当にすごいことだと実感し、感動できるカメラです」とのこと。

 

20万台以上が製造されたライカM3の始祖にあたるプロトタイプモデル。M3オーナーであれば尚更いろんな違いを感じてもらえると思います。見れば見るほど驚きがあり、まだまだご紹介すべきディテールが沢山ありますが今回はこの辺で失礼させていただきます。この続きは次回に予定していますのでお楽しみに。

ご紹介のカメラとレンズ

ライカM3 プロトタイプ

案内人

ヴィンテージサロン コンシェルジュ:ライカフェロー 丸山豊
1973年生まれ。愛用のカメラはM4 ブラックペイント

執筆者プロフィール

ガンダーラ井上氏プロフィール写真

ガンダーラ井上

ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。

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