新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.034 ノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.

カメラのキタムラレビューサイト『ShaSha』より転載
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画ではコンシェルジュの方がお薦めのライカボディやレンズを用意してもらい、いろいろ教えていただいています。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?
現行品の大口径標準レンズ

前回に中明さんが用意してくれたのはライカM2の各ジェネレーション5種の盛り合わせという、滅多に見られない豪華なセットでした。それに対して今回はシンプルに1本のレンズのみ。でも、このレンズは1本でお腹いっぱいになりそうな太さです。
「今回はノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.になります。現行品の大口径標準レンズですね。見ての通り大きなレンズですが、中身にはガラスがぎっしり詰まっていて重量は約700gになっています」
開放F値0.95のドリームレンズ

このレンズ、とても有名だけれど手に入れるには勇気がいる憧れの1本という印象があります。いつかは0.95と思って随分前にウェッツラーのライツパークのショップで購入した0.95Tシャツを偶然着てきましたが、これも何かの巡り合わせでしょう。
「このレンズは2008年に発売開始され、もうすぐ20年という長期間作られています。レンズ構成は5群8枚のうち2枚が非球面レンズで、全体のうち5枚に異常部分分散ガラスという特殊な素材を用い、その5枚のうち3枚には1kgあたりの単価が純銀の2倍の価格という高価な高屈折率ガラスを使っているそうです。技術の粋を駆使して、素材も惜しみなく使った非常に豪華な仕様です。重量級ですけれど、重さだけでなくお金もかかっています」とのこと。
歴代ノクティルクスのサイズ感

ノクティルックスはライカ用の大口径標準レンズとして1966年に登場。民生用として世界で初めて非球面レンズを採用したF1.2がオリジナルモデルとしてあり、開放F値を1.2から1に向上させた球面レンズの時代を経て、今回ご紹介する0.95へと到達していきました。左:F1.2の復刻版、中:F1のE58と呼ばれるモデル、右:現行のF0.95です。歴代ノクティルックスと0.95の違いはどこにあるのでしょう?
「たとえばF1のE58では背景が巻いたような描写になりますが、0.95ではあまりそのようなことは感じられません。多少の歪曲はありますが初代のF1.2ノクティルックスに比べれば歪みの量は少ないです。気になるような歪みや像の流れは多少残っていますが、かなり補正されたレンズだと思います」とのこと。
「0.95はまもなく発売開始から20年が経過しようとしているレンズですが、その間にモデルチェンジは行われず、頂点を極めたまま新しくなっていないということは、ここで完成形という位置付けのレンズなのかなと思います」
中明さんが今回お薦めしてくれたポイントは?
「F1.2のオリジナルは希少性から異常な中古価格になっていたりしますし、E58も人気が継続していて状態がいいものが見つけづらい状況に対して中古価格は非常に高額です。その点からF0.95は金額的にも性能的にも実用的なのではと思います」
現行の標準レンズのサイズ感

歴代ノクティルックスのサイズ感に続きまして、現行の標準レンズでも比較してみましょう。
左:球面のズミクロンF2、中:非球面のズミルックスF1.4、右:現行のF0.95です。こうして並べてみるとズミクロンF2はコンパクトですよね〜。開放F値が向上するのに伴って、レンズのサイズ感も右肩上がりに上昇しています。この3本の標準レンズ、絞り開放で撮ってみるとどのような描写になるのか比較してみることにしましょう。
同ポジション絞り開放で撮り比べ

ズミクロンM f2/50mm
ライカの標準レンズといえば、フィルム時代から定番として君臨し続けているのがズミクロン。今回はノクティルックスの最短撮影距離に合わせて1mにあるアンスリウムにピントを合わせています。絞りは開放のF2です。立体感のある素晴らしい描写。背景も綺麗にボケています。

ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.
続きまして非球面化されたズミルックス。ライカ用の標準レンズの新定番として評価の高いレンズですね。同ポジションで絞りは開放のF1.4。合焦面のシャープさに加え、背景のボケがさらに大きくなっているので立体感が増してくる印象があります。

ノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.
レンズを交換して、いよいよノクティルックスで撮影。絞りは開放のF0.95です。ズミクロン、ズミルックスの開放とは大きく異なる描写です。アンスリウムの黄色い花序はボケて、その奥の赤い部分はシャープに結像していることから極めてピントが浅いことが分かります。背景のボケも極めて大きく、周辺光量の落ち込み方もドラマチック。ピントを合わせた部分が浮き立って見えてくる印象です。背景の直線部分に歪曲収差が認識できますが、初代のノクティルックスのような極端な歪みではないです。
まとめ

というワケで、今回はM型ライカで最も明るい標準レンズ、ノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.をご紹介しましたがいかがだったでしょうか? このレンズを使いこなすにあたり、中明さんお薦めのボディはM11とのこと。
「日中の屋外ではF0.95で撮ろうとしてもISO64で1/16000秒とかになります。M10の場合シャッターの最高速度が1/4000秒なのでNDフィルターが必要になります。NDフィルターを使うと画質が変わるので使いたくないという方にはM11の電子シャッターというのが一番実用的かなと思います」
ノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.の見た目の立派さはこけおどしではなく、絞り開放でのボケの大きさとピント面のシャープさが相まって印象的な作品作りに期待が膨らみます。撮る前に、作品作りを夢想させてくれるという意味では、まさにドリームレンズと呼ぶに相応しい1本ですね。
ご紹介のレンズ
ノクティルックスM f0.95/50mm ASPH. 新品価格1,964,600円
案内人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
執筆者プロフィール

ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。編集企画と主筆を務めた「Leica M11 Book」(玄光社)も発売中。
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