キャンディッド写真で表現する東京|青木ユリシーズ氏 個展「残された情景」の魅力を伺う。
本インタビューについて
2024年10月6日(日)~2024年10月20日(日)に当店B1Fベースメントギャラリーにて、写真家 青木ユリシーズ氏の個展「残された情景」を開催します。東京を舞台に、街の影で蠢く人物、取り壊された古壁の断片、色彩豊かなLED などを切り取った美しい作品を展示します。今回は、Palm Photo Prize 2022 優秀賞、London Street Photography Festival 2021 最優秀賞など数々の賞を受賞してきた青木ユリシーズ氏に個展の開催を記念して、インタビューを行ってきました。写真をはじめたきっかけや本展の見どころ、展示作品について伺いましたので是非ご覧ください。
青木ユリシーズ展示会「残された情景」
2024年10月6日(日) - 2024年10月20日(日) の期間中青木ユリシーズ展示会「残された情景」を開催します。
出会いと学び
Q.写真をはじめたきっかけを教えてください
5歳からスタートしたモデルの仕事は徐々に真剣な取り組みになり、大学生の頃には東京コレクションやパリコレへの憧れが強くなっていました。ハイブランドなコレクションに出る為に何をすべきかと考える中で、モデル活動をしてきた15年間を振り返ってみると撮影するカメラや写真について何も知らないという事に気が付き、ハッとしました。
それまで自分は撮られる専門だったのですが、モデルとして成長する上でも撮る側についても勉強してみようと思いカメラを購入したのですが、最初は全然うまく撮れずに何でこんなに下手なんだろうとフラストレーションの溜まる日々を過ごしていました。その頃同じモデル事務所の友人と集まってポートレートを撮らしてもらっていたのですが集まれたのは週1日に数時間がやっとで、それではうまくなれるはずがないと考えるようになり、1人で街に繰り出してスナップを撮るようになりました。
また撮られる側のモデルの仕事ではプロカメラマンに撮ってもらっていたので、勿論どの写真も素晴らしいものだったのですが、どこかしっくり来ないところがあって、それが何なのか分からないまま長い時間が経過しました。ある時カメラ好きの友人と街を歩いていると、その友人が私を撮ってくれたのですが、身構えていないナチュラルな私を捉えた写真を見て、自分はこういった自然体の写真が好きなのだと気が付きました。
Q.どのようにカメラや写真を学ばれてきましたか
実は振り返ってみると両親がアート系の出版社を営んでいて、家の中にはその手の本が沢山ありました。カメラを始めるまでの私はファッションとスポーツにしか興味がなかったので、それらの本を真剣に読んだ事はありませんでしたが、家のそこかしこにアート系の本がありましたのでパラパラとは見ていて、写真がアートとして扱われる世界があることを知っていました。そこで、表現をする世界に飛び込んだのが遅かったので感覚的に撮るというのはおこがましいように感じていて、うまく撮るためにアートの古い歴史から勉強することにしました。
歴史を勉強して行くと、写真とアートが重なり合う場面がいくつか出てきて、その中でもストリート系のドキュメンタリー寄りの写真に興味を持つようになりました。写真の権利を守ることに対して歴史的にも重要な役割を果たしたマグナムの写真を初めて見た時は強い衝撃を受けたのを覚えています。世界をこんな目で見ることができる人間がいて、カメラでこんな表現が出来るのかということに驚きました。血眼になって練習していけば、いつかこういった写真に近づく事が出来るのではないかと考え、写真に対して真剣に取り組むようになっていきました。
Q.ということは独学で学ばれてきたのですか
写真はこのようなかたちで概ね独学で学んできましたが、尊敬する写真家の方から頂いたアドバイスも重要な指針になっています。
メルボルン在住のジェッシー・マーロウ(Jesse Marlow)という写真家の作品が好きでInstagramをフォローしていたのですが、彼が来日した時に飲み会に誘ってもらえて、自分の写真にアドバイスをもらう事ができました。その後もアドバイスをもらえる関係になったのですが、凄く有難かったアドバイスは、「君は色が見えているんだからカラーで撮りなよ」と言われたことで、それまでモノクロ中心で撮影を行っていましたがカラーを意識して撮るようになりました。
デジタルカメラを使えば誰でもリアリティーのあるカラー写真を撮る事が出来るのですが、それと良いカラー写真というのは別もので、色をしっかり見れる人というのはそんなに多くないというのが彼の見解でした。それを理解するのに苦労しましたが、今ではこってりしたカラーの世界観が自分の強みだと考えていて、今回の写真展をカラーだけにしたのもその理由です。
撮影機材
Q.どのようなカメラを使われてきましたか
今まで使ってきたカメラを持ってきました。壊れているものが殆どで、何回も直そうとして見積をもらっているんですが、結構いい修理費用になっていて直せないままになっています。沢山撮影してきて思い入れがあるということもありますのでこうして手元に置いてあります。
最初の頃は自分の好きなマグナムの写真がフィルムで撮られていたのでフィルムカメラを色々使うようになり、CONTAX T2を良く使っていました。そこからLeica M6で撮るようになって、ONEレンズ、ONEカメラ、ONEフィルムストックのように自分なりに制限を持たせて撮っていました。フルフレームのフィルムを装填して焦点距離35mmのレンズを装着した時にファインダーを覗かなくても、どのような画になるのか分かるようにしたり、様々な色に対してフィルムがどういう反応をするかということをしっかりと叩き込み基礎を磨いたりしていました。
その後、デジタルを使って納得いく画が撮れたのがLeica Q-Pで、これも2~3年くらい使っていました。そこからキヤノンの一眼レフにズームレンズを装着して撮影を行ったり、ポケットに入るのもいいなと思うようになりキヤノンG7 Xも使うようになりました。今はポケットサイズのカメラはGRを使っています。
Q.拘りの撮影方法はありますか
拘りはあんまりないのですが、結果論で言うと本当に沢山撮ります。対象物となる被写体をどうやって表現するのが良いか、いくつものパターンを試しながら撮るので、連写はしませんが沢山の枚数を撮っています。例えば夕方に写真を撮りに行って、わーキレイとなった時に、キレイたらしめる要素には何が含まれているのかを考えて撮ります。それは差し込んでくる光がキレイなのか、空がキレイなのか、それとも逆光で光と人の重なる光景がキレイなのかを一つ一つ確認しながら沢山のパターンを撮ります。
展示作品の紹介
個展「残された情景」の見どころを教えてください
東京は2017年~2019年に世界的なスポーツイベントの準備で街が取り壊され、インバウンド需要を取り込むため新たな施設がつくられました。日本の伝統的な文化と前衛的なところを強調するような街づくりが行われ、その象徴がLEDによる煌めきであると感じています。
日本のホテルに行きロボットがお出迎えしてくれるような状況は冗談交えて表現すると3000年くらい未来に時を進めたかのようで、海外の方が期待するようなユニークで素晴らしい施設がつくられてきたかと思います。
一方、2020年に開催を予定していた世界的なスポーツイベントはパンデミックによって1年延期になり、準備していたものが崩れたわけではありませんが思っていたものよりもの寂しくなったと言えると思います。
それにより東京は人口集中する場所であるものの寂しさを感じる場所になっていたり、キラッとした発色が良いものの中に壊れた壁や古びたトンネルがあったりと、不思議な世界になったと感じています。今回の写真展では、それらの要素をギュッと詰めるようにして自分が思い描くタイムラインで作品を並べてこの世界観を表現しました。
また写真は現実を伝えるものでないという考えから、東京で起こっている事を表現する上で海外で撮ったものも展示してます。永遠の都と呼ばれるローマで撮った作品は変動の速い東京との対比の為入れました。
Q.作品づくりに影響を受けたものはありますか
ここ最近は抽象画の世界に影響を受けています。写真も長らく撮っているゲルハルト・リヒターがどうして抽象画をつくるようになったのかが気になり、興味を持ちました。私が好きな画家の多くは写真撮りだったということが判明し、当然写真とはフォーマットが異なるので同じようには出来ないのですが、表現者として絶対に学べることがあると確信し影響を受けています。
抽象画の特殊なフィーリングベースなところに、いつ終了すべきか?というのがあります。キャンディッド写真と言われるカメラを持ち歩いて自然体のまま写真を撮るといった、私の好きな撮影方法もそれに近い要素があって、その場で適応しないといけないですし、これでもう大丈夫と手を放すことも必要だと思っていて、プロセスが似ているように感じています。
また私のキャンディッド写真では思い描くカラーパレットを編集で作り上げるのではなく、街に出て被写体の色を見た時にあの色はリヒターの赤色に近いなどと考えることで、連想ゲームのような感覚で撮影に臨みイメージ通りの色味に仕上げています。
Q.展示写真作品について少し解説してもらえますか
こちらはシドニーの海岸沿いにあるプールで捉えたもので、最初の一枚目に展示しています。プールサイドと階段がバランスよく収まり、遠くには泳いでいる人が見えました。ただ少し物足りなさを感じて、こういう構図になったらシャッターを切ろうと待ち構えていたら、この素敵な女性が階段を下がっていくのが見えて、泳いでいる人とイメージ通りの位置で写しとめることが出来ました。
イタリア料理を食べにいった際にレストランで捉えたもので、カメラはいつでも撮れるように持ち歩き、常に周りを見ることの重要性を再確認することになりました。寂しさを感じると共に何かを待ち望むような雰囲気の作品でパンデミックを象徴するものとして展示しています。
新旧入り混じった東京を捉えた1枚です。緊急事態宣言が出されて徐々にそれが解除されてもすぐには人出は戻らずそういう環境に左右されて、自分が夢中になってきたキャンディッド写真が撮れない事を悲しく思う時期でした。ただ同時に人を主題にしない写真を学ぶことができ大変貴重な時期にもなりました。今回のようなストーリーラインの1つとして使う事が出来る事を考えると、どうして迷っていたんだろう、もっと撮れば良かったと、今になってようやくそのような考え方が出来るようになりました。
今後について
Q.今後の活動について考えていることを教えてください
写真を撮るようになってからもうすぐ10年になるので、そこでキャンデッドのストリート写真は区切りを付けたいと考えています。この長いストーリーは1回そこで終わるんですけど、その先もやりたい事はあって、これまで表現してきたことを体験できる場をつくりたいと考えています。
ソーシャルメディアにより自分で撮った写真を共有することでアートの世界に参加することができ、その楽しさを感じられることは今の社会の素晴らしいところであり、作品を作り続ける上で重要な事であると学んできました。今度はその学びをプロジェクションマッピングや、体験型の現代アートのようにリアルな場で再現することが中長期的な夢ではあります。
写真家は目の前の像をどうやって切り取れば面白くなるかを求められますが、表現したいものを皆で楽しく体験できる場所をつくることも写真家の活動の一つに出来れば面白いんじゃないかなと考えています。
写真家:青木 ユリシーズ
日本人の母親とアメリカ人の父親を持ち日本に生まれ、東京を拠点とするアーティスト。ドイツ・ハンブルグのアートギャラリー、イタリア・ラゴネグロの宮殿、日本の日比谷OKUROJI アートフェア等にて展示開催。ドバイ観光庁に招致され写真ワークショップを現地開催、ミラノファッションウィークにて写真を展示、ローマ初のユニクロの店舗オープン時に展示イベントを開催、屋久島の観光ドキュメンタリーにて写真家として主演するなど、写真表現を用いて様々なプロジェクトを手がける。サステナビリティの専門家としても10 年以上活動し、UNGC(国連グローバルコンパクト)、UNESCO、金融庁開催等のセミナーに登壇。
受賞歴:Miami Street Photography Festival 2020 優秀賞、London Street Photography Festival 2021 最優秀賞、Palm Photo Prize 2022 優秀賞 等
青木ユリシーズ氏 個展「残された情景」
■個展「残された情景」
・日時:2024年10月6日(日)~10月20日(日) 10:00 ~ 21:00
・場所:新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリー
・住所:東京都新宿区新宿3丁目26-14 [地図はこちら]
・入場料:無料
■トークイベント
・日時:2024年10月6日(日)17:30~19:00
・登壇者:青木ユリシーズ氏、和田将治氏
・定員:約10名
・料金:1,000円
詳細とお申込みは当店のホームページをご覧ください。
■フォトウォーク「キャンディッドフォト体験」
・日時:2024年10月12日(土)
・定員:5名程度
・参加費:2,500円
・その他:午前の部(10:30スタート)、午後の部(14:30スタート)の2部制
詳細とお申込みは当店のホームページをご覧ください。
カメラのキタムラ『ShaSha』より転載