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シトウレイ写真展 記念インタビュー(後編)

2020.11.30

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    現在開催中の、シトウレイ写真展「STYLE ON THE STREET from TOKYO and beyond」。先日トークイベントでもお話頂いた、クリエイティブディレクターの前田陽一郎氏を向かえ、シトウレイ氏にお話を伺った。(後編)

    シトウレイの作り方(後編)

    たくさんの人を見ているから、次の流れも見えるようになってくる

    前田

    自分が素敵・可愛いって思って撮影したたくさんの写真の中から、再構成して抽出されたものが、「自分が今イケてると思ったポイントだった」という後確認のようなことなのかな?

    シトウ

    そうそう、それが割とトレンドと波長が合っているというか。割と当てるんですよ。(笑)

    前田

    街に立って、みんな心理的なものってどこか共有しているんだよね。例えばコロナのこの時代だと、なんかみんながどこかで同じことを感じていて。

    シトウ

    ファッションは自由だけど、世界は一つしかないから、みんな同じ、コロナになっちゃったねーみたいなことを共有していくからこそ変わっていくんだろうと思うし。
    去年くらいまでは、ラグジュアリーストリートっていう、いかにも高そうでお金持ち!みたいなのが流行っていたけど、そのところの反動が来てる。
    もともとその予兆はあったけど、オラオラしているのがかっこ悪いね、ってパツと変わったのは今年の3月くらい。着こなしも本当の上質感が求められるようになって…「素材の良さそうなコートを着てますね!MAXMARAでしょ」みたいな。胸元にブランド名が書いてあるのは、ちょっとトゥーマッチだなって。

    前田

    わかるなぁ

    シトウ

    エルメス的なものがかっこよく見える時期と、わかりやすいブランドがかっこよく見える時期と両方ある。エルメス着てますって主張したいのに、ブランドロゴが前面に出ていないから勿体ない、だったら大きくブランド名が書いてある商品を買おうという時代から、流れは明らかに変わりつつあるなと思ってて。

    前田

    つい最近も、男性ファッションの流れが体育系から文化系に変わってきたねという話をしていて。つい最近まで男性ファッションは長い間、タフガイのものだったよね、と。

    シトウ

    カニエウエストみたいな。

    前田

    ケンカが強い人みたいな。

    シトウ

    やっぱり悪い感じがよかった(笑)。

    前田

    ところがコロナという世界共通のクライシスを目の前にして、それを解決してくれる誰かというのが、皆が求める理想のもしくはアイコニックな存在になりつつある。

    シトウ

    それ、この間のセミナーで言っていたことのそのまんま!
    「夜のクラブでギラギラした格好でウェイ!ってしてる写真から、皇族の写真に変わります」っていうのをスライドで見せたの。その資料を作っている時に、ファッションって変わるんだなぁって感じてて。その後コロナがやってきて、より「本質的なものに」っていう勢いが加速していったから、割とそういう面で見るとファッションの流れって、コロナを予言してたってことはないけど、半年先を見てたんだなと。

    前田

    やっぱり時代がファッションを作るし、時代が後の空気を作っていくんですよ、きっと。それを、街に出て沢山の人を記録することで、シトウレイの勘が養われていくし、そういう意味では時代の流れに対してセンシティブな触覚みたいなものがあってそれがこの写真を生んでいるんだろうなと思う。

    トレンドを撮っているんじゃなくて、スタイルを撮っているんだと思う

    シトウ

    それはあるかも。街に出る時に服も見るけど、人の流れも結構見るようにはしてる。自分は撮らないけど、「あこれ来てるな」とか、「こういう髪型流行ってるな」とか、現場にいると勝手に時代の空気を吸っちゃってて。ずっと街にいると、なんとなくこうじゃないかなって時代の空気がわかるから、ファッションも見られるのかも。時代の空気でファッションを語れるっていうのかな。

    前田

    ところがね、こうやってとてつもない量の写真を見ていると、いつ撮った写真なのかわかんないんですよ。

    シトウ

    そうですよね。

    前田

    それってすごいことだと思う。ファッション写真って大体いつ撮ったかわかるじゃない。

    シトウ

    わかりますね。トレンドがあるから。

    前田

    そう、トレンドがあるから。なんだけど、ここにいる人たちって、”あ、いつ頃かな”っていうのはあったとしても今見ても古い感じがする人がいないんですよ。

    シトウ

    それは思いました!

    前田

    シトウレイの切り取るファッションはやっぱりトレンドを切り取っているんではなくて、人を切り取っているんですよ。

    シトウ

    それは感じます。トレンドじゃなくてスタイルを撮っているから。

    前田

    この写真集に収められてる人たちって、別に表現してやろうとか、やってやろうっていう気持ちで着てるんじゃなくてね、普通に好きなものを組み合わせて着ていたらこうなりました、って人たち。もちろんとってもファッションに愛情を持ってね。作為的なものって、時間が経つと見えちゃったりするのに、それがないんですよね。

    シトウ

    それが今回写真集を作って得た大きな知見でしたね。多分私自身が天邪鬼だから、トレンドを着ている人がかっこ悪く見えちゃうんだと思う。トレンドってつまり、十把一絡げ。それがむしろかっこ悪く見えちゃうの。だから例えば、ダッドシューズをみんな履いてるなって思ったら多分撮らなくなってた(笑)。最初の走りの段階では撮ってたんですが、それがトレンドにのっちゃうと、もう私は次を探しに行っちゃうというか。

    ファッションスナップなのにヨコ位置写真がなぜ多いか

    前田

    今回の写真集はおよそ何年から何年に撮られたものなんですか?

    シトウ

    2008年から2019年までです。

    前田

    11年間?このファッションの移り変わりがとてつもなく激しかった中で。

    シトウ

    そうなんですよ。不思議ですよね。

    前田

    ところでもう一つ。シトウレイの写真で気になる部分。ヨコ位置が意外に多い!ファッションスナップって、一般的にはあんまり多くないよね。どうしても人とファッションを中心にしていくと、タテ位置の写真であるべき。しかもこれがマガジンという形態だったりスマホの画面を想定しても、やっぱりタテ位置がいいと思うんですよ。なんだけど、シトウレイのストリートスタイルフォトは、ヨコ位置の写真が多い。これっていわゆる日の丸構図を狙っているわけでもないじゃないですか。

    シトウ

    そうね。

    前田

    自分で意図したんじゃないんでしょ?

    シトウ

    撮ったらなんかしっくりくるなーと思ったタイミングがあって。横の方がいいなーって思い始めてから、ヨコ位置で撮り始めたかな。なんとなく撮ってるうちに、です。縦も横も一応両方撮っておこう、と撮っていたら「あ、横いいじゃん」みたいな感じで始まったかな。だから初期の写真は縦が多いんです。

    前田

    あともう一つ、写真が好きな人ならもしかしたらわかるかもしれないけど、レンズを多用しないですよね?しかもいわゆる50㎜ベースの標準レンズの感じがする。人との距離はズームで撮るんじゃなくて、自分が近づいていくか自分が離れていくかでしょ?それがまたいいですよね。

    シトウ

    何かズームって便利なんですけど、ズルしてる感じがして。なんか人とコミュニケーション取る時に、遠くで話すのもちょっと失礼だし、ちゃんと話せる距離で撮りたいなっていうものあるから、50mmくらいがちょうどいいな、と。

    前田

    そうですよね。単焦点レンズで、かつズーム固定のレンズで撮っているから常に自分の目線の感じがするんですよ。

    シトウ

    それはすごいありますね。1回ズームとか使ったことあったんですけど、薄い写真に見えちゃって、私向きじゃないなって感じちゃった。

    前田

    もちろん被写界深度をわざと浅くして、周りをぼかして、抒情的なストリートスナップを撮る人もいるけれども、背景までひっくるめて自分の目に映っているものを記録している感じがするのとはまた違う、というかね。

    シトウ

    そうですね。ボケる写真はすごく好きなんですけど、それは私が撮る写真じゃない。かっこいい写真を撮ろうって思って撮っているわけではなくて、人を撮ってるからだけだから。まあ被写体がいいから、結果いい感じの写真になってるけど…
    かっこいい写真を撮ろうと思ってやってると、逆にいろんなことが気になってきちゃうんですよ。そもそも私は写真そんなにうまくないんですよ。だっていきなり「撮ってきて」からキャリアがスタートしているわけだし。写真やレンズとかこだわったりする人から見ると、なんでお前が写真集出せるんだよって思われるようなものも多分入っていると思う(笑)。

    結局、グルっと回って富士フィルム!みたいな(笑)

    前田

    うまく撮ろうとする、それは技術を磨くという点では大事だけれども、何を切り取ってるかっていうのも写真だから。

    シトウ

    視点を大事にしてるから、技術はカメラに任せる。カメラの発展に(笑)。

    前田

    主に今使っているカメラはなんですか?

    シトウ

    富士フイルムのXT-4です。

    前田

    それは長らく?

    シトウ

    Xシリーズは1から使ってるから長いですね。5~6年ずっと使ってる。
    富士フイルムが一番まんま映すなと。オリンパスとかかっこよくなるじゃないですか。黒がパキッと。ちょっとかっこいい男らしい感じになる。それはそれでかっこいいと思うけど、私は目で見たそのまま撮りたいなって思ったら富士フイルムの色出しがすごく馴染むな、と。

    前田

    それはもともと富士フイルムのポジフィルムからスタートしているから?

    シトウ

    そこからカメラは変わって、アナログからデジタルになって、ソニー、オリンパス、リコー…

    前田

    色々と試した上で?

    シトウ

    そうそう。色々買い替えるなかで、富士フイルムに出合って、「あ、これが多分一番私っぽいかも」って思って。自分が見ている色と雰囲気を撮る、かっこつけていない写真が撮れるなって。見たまんまの写真が撮れるから、私の気性には合ってるのかなって。性格によると思うけど、私は、足さない、引かない系が良かったんです。

    前田

    誰か写真を撮っている上で、意識する人とか、影響を受けた人とかいます?

    シトウ

    色んな写真を見る事にはしてるかなぁ。

    前田

    だからといって、何かに影響されているということはない?

    シトウ

    真似したらおしまいだと思うから。でも、色々見てるから少なからず影響は受けてると思います。スコットの写真とかは仲良いから見たりしてる。

    前田

    スコットって、スコット・シューマン?でも画風は全然違うよね。

    シトウ

    うん。全然違う。服と人撮ってるけど、なんか違うんですよね。

    前田

    たしかに、共通することがあるとすると、技法じゃなくて人を撮るっていう感じはシンクロしてる。かっこいい写真を撮ろうとしてないけど、結果かっこいいっていう。

    シトウ

    そう、だから私との一番近いところはそこ。写真家の写真展はいくようにしてるけど、でもそれも文学とおんなじなのかもね。

    シトウレイさんの写真展「STYLE ON THE STREET from TOKYO and beyond」は、12月6日(日)まで、新宿 北村写真機店で開催中です。

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